「ごちそうさま」

「先輩、ゆっくり食べないと消化に悪いですよ」

「よく噛んでるから大丈夫だよ」

そういうと、お弁当箱を片付けて先輩は、隣でころりと横になって目を閉じた。

「…昼休み終了5分前に起こして」

「はい」

先輩に遅れること数分。
食べ終えたお弁当に両手を合わせて、ごちそうさまを告げてからお弁当箱を片付ける。

昼休み終了にはまだ時間があって、お日様の光りも、そよいでる風も心地よい。
目を細めて大きく伸びをすると、寝ていたはずの先輩が小さなくしゃみをひとつした。

「ん…」

「…寒い、のかな」

よく見れば、先輩のいるところは日が当たっていない。
眠るには木陰がいいけれど、この時期だと少し寒いかもしれない。

暫し考えた後、木に背をつけて寄りかかってから、その頭に手を伸ばした。
起こさないようにしたつもりだけれど、那岐先輩相手にそれは無理というもの。

「…なにしてるの」

「ごめんなさい、起こしちゃいました?」

「頭掴まれれば普通起きる」

眉間に皺を寄せた先輩が身体を起こすよりも先に、膝の上に先輩の頭を乗せた。

「はい、どうぞ」

「な……」

「まだ5分前じゃないですし、でもそのまま横になってると寒そうなので、これならいいかなって」

「馬鹿じゃないの」

馬鹿…と言われ、小さくショックを受ける。
やっぱり教室に戻ってコートを取ってくる方が良かったのだろうか。

「そういう意味じゃなくて…こんなとこで、そんなことしたら、いい見世物だ」

「はい?」

「…気づいてないなんて、鈍感にも程がある」

「?」

「気を使っていた僕が馬鹿だった。いいよ、膝枕…借りる」

「はい!」

にこにこ笑顔で頷けば、那岐先輩がほんの少しだけ笑って、膝に頭を乗せた。

「那岐先輩」

「…なに」

「頭撫でてもいいですか?」

「眠れないから嫌だ」

「ちょっとだけ」

「…ダメ」

「那岐先輩〜っ」

「ダメったら、ダメ」

「むぅ…」

無防備に目を閉じて、すぐそばに先輩の柔らかな髪があるのに触れられないなんて…なんのいじめだろう。
眠った瞬間、触ってやる…と心に誓ったけれど、それも那岐先輩に読まれていて、あらかじめ釘を刺された。

「そ、そんなぁ」

「それでもよければ、触れば」

「う、うぅ…」

「ふわぁ…それじゃあ、今度こそおやすみ、

「…おやすみなさい、那岐先輩」

手を伸ばして、手の届くところにいる、愛しい人
でも、彼に触れてしまえば、あることをしなければならない



――― 触れたければ、名前で呼びなよ



学校の王子様と呼ばれている那岐先輩を、呼び捨てにする…そんな大それたこと、今のあたしに出来るはずはない。





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那岐ブーム、か?(笑)
那岐のあの髪に触れてみたい衝動に駆られてます。
2010/11/18